今、孤独なあなたに、詩を一つ

夏休みも終わりですね。
 
夏から秋にむかう氣ざしが見え始めると
わたしは「銀河鉄道の夜」を
なぜか思い出します。
 
活版所の音、牛乳屋さんから出た時に
大きく聴こえる汽笛、
そして、銀河への旅。
 
そんな宮沢賢治の詩を一つ。
 
高校生の時に読んだ時、
しばらく頭から離れなかったもの。
 
こんな自分でもいい、
そう思えた詩。
 
何かあったなら
そう、光のパイプオルガンの音を
聞きに行けばいい。
きっと誰かがどこかで弾いているから。
 
 
誰も弾いていないなら、
わたしが弾け、力のかぎり。
 
 
※※※
「告別」

おまへのバスの三連音が
どんなぐあひに鳴ってゐたかを
おそらくおまへはわかってゐまい

その純朴さ希みに充ちたたのしさは
ほとんどおれを草葉のやうに顫はせた

 
もしもおまへがそれらの音の特性や
立派な無数の順列を
はっきり知って自由に
いつでも使へるならば
おまへは辛くて
そしてかゞやく天の仕事もするだらう 
 
泰西著名の楽人たちが
幼齢弦や鍵器をとって
すでに一家をなしたがやうに 
おまへはそのころ
この国にある皮革の鼓器と
竹でつくった管とをとった 
 
けれどもいまごろちゃうど
おまへの年ごろで
おまへの素質と力をもってゐるものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだらう
 
それらのひとのどの人も
またどのひとも
五年のあひだにそれを大抵無くすのだ
 
生活のためにけづられたり
自分でそれをなくすのだ
 
すべての才や力や材といふものは
ひとにとゞまるものでない
ひとさへひとにとゞまらぬ 
云はなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけはしいみちをあるくだらう

そのあとでおまへの
いまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子と
その明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまへをもう見ない 

 
なぜならおれは
すこしぐらゐの仕事ができて
そいつに腰をかけてるやうな
そんな多数をいちばんいやにおもふのだ 
 
もしもおまへが
よくきいてくれ
ひとりのやさしい娘を
おもふやうになるそのとき
おまへに無数の影と光の像があらはれる 
おまへはそれを音にするのだ
 
みんなが町で暮らしたり
一日あそんでゐるときに
 
おまへはひとりであの石原の草を刈る
そのさびしさでおまへは音をつくるのだ
多くの侮辱や窮乏の
それらを噛んで歌ふのだ
 
もしも楽器がなかったら
いゝかおまへはおれの弟子なのだ 
ちからのかぎり
そらいっぱいの
光でできたパイプオルガンを弾くがいゝ
 
(「新編宮沢賢治詩集」 天沢退二郎編 新潮文庫)
 

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