ヒト(生物学的表現)としてのホモサピエンスの人間の特徴が実は色々あります。
現代社会は、頭で考えた人(思想的な人を表す)が、作り上げた理想的快適なシステムで、ヒトと人の間には実は乖離が結構あります。
その生物的特徴、心、身体の成り立ちを無視した結果、一見楽や便利そうに見えて長い年月から見ると生き辛い社会を構築している、というのは否めません。
さて、これもその一つ。
脳の成長もヒトの特徴をとても独特にしている分野です。
よく幼少期のことを大人になってもごちゃごちゃ言ってるなんて大人げない、
今更まだそんなことを言ってるの?
いつまでも引きずっているなんて、
などと言う方や言われることがあったかもしれませんが、とんでもないことです。
ヒトの赤ちゃんって他の生まれたての赤ちゃんよりもふくふく太っているのは、その後脳の成長への栄養を蓄えているためです。なぜなら人間しかしない二足歩行になったため、骨盤は他の生物よりも狭く、しかし脳は他の生物よりも発達してしまった(=頭蓋骨が大きくなった)、結果、より他の哺乳類よりも身体機能も脳も未発達の状態で体の外に出さざる得なくなってしまいました。その大切な脳を大きくする栄養を備えていること、としてふくふく脂肪を蓄えて生まれてくるのがヒトの赤ちゃんなのです。そして生まれてからいくらでも大きくなれるような自由を得た脳は爆発的に成長を始め、周辺の情報を収集する五感→認知能力→前頭前野などは更に時間をかけて15歳までに段階的に成長発達していくのです。
まずは感情の発達と共に五感は情報の入り口、それを捉える認知能力、そうした情報や感情を判断分析制御してくのが前頭前野。前頭前野の衰えや未発達な人の見分け方、それは我慢できるかできないか、が分かりやすいと思います。(また年をとって涙もろくなる、これも実は前頭前野の衰えからきています)衝動的であり、感情的な状態、それは前頭前野が未発達であったり成長が阻害されていたり、45歳前後から衰え出すのでそうしたものによるのです。
泣いて、笑って、感情が目まぐるしく変わる幼少期、我慢できない小学校低学年の子ども、怒りを隠せない老人、それは前頭前野の成長と衰えからくるものです。
今、大人は子どもに大人と同等の接し方をしているような感じがします。
どういうことか、ちゃんと説明したら分かる、というスタンスで接することです。
わたしが分かる説明をしているのだから、社会の常識なのだから、わかるでしょ?
いえ、分かりません。
同じ成長段階にないから、です。
同じ人間であったとしても、そして前頭前野だけみても、幼少期の段階と思春期(ここで一番成長します)、老齢期とは違うのだから。子ども、は子どもの視点と理解の中にいて、思春期の脳の不安定さは感情の不安定さに繋がり、老人の方がなぜ黄昏るのか、鬱になるのか、それは同じ場所にいたとしても違う感覚でいるのだから。
昔の人は家族が多かったり、核家族ではない社会性の強い、関わり合いの強い絆の中で生きていたので自分に兄弟がいなかろうと幼児ってこんなものだ、年をとる、死に至る、病気、中年、青年というものはこういう状態になるのだ、という観察と関わり合いがあったので、
こどもってこんなもん、
若いってこんなもん、
年をとるってこんなもん、
という学びがあったのです。
なのである島の老人ホームでは村人の方が看取り時期を見極めるのが正確だ、というような看護師のエッセイを読んだことがあります。看護師さんや医者が数値で大丈夫だと思っていたら、周りがああ、これは身内を呼んだ方がいい、そろそろ旅たちの状態だよ、と言ったことの方がだいたい当たる、と。
話がそれたので元に戻ります。
その爆発的に成長する過程で、適切な育成や支援、導きが精神、身体、心に与えられないと、それぞれの発達に支障をきたしてしまいます。それは記憶や心の傷と共に脳のそれぞれの部位の萎縮や肥大化となってそこの手当てを(治癒)を施さないとそのままの状態で生きていかねばなりません。
例えば海馬は大脳からくる情報から記憶を作り保管します。その記憶は強い情動を伴う部分と言われています。また偏桃体は情動に関係しており、危険を察知するために過去の体験を元に今の敵味方を見分ける為の部分となります。これら二つの情動の記憶とその体験から判断する部位をコントロール(理性的に抑える)部位が前頭前野となります。故にこの部分は脳の司令塔としても例えられることもあるし、最後に発達する部分となります。
小さな子やまだ小学生の下級生など、泣きたかったら泣く、笑う、怒るなど感情が豊かとも言えるし、不適切な部分でも抑えられない幼さはこの部位の発達が15歳あたりでようやく見えてくる部分だから、なのです。それは感情は豊かな方がよいですが、情動を抑えられない、ということをネガティブに表現すると欲望を抑えることが出来ない、ということです。
前にも書きましたが我慢できない、ということです。
では具体的に例をあげてみましょう。
不適切な育成、また激しい体罰を受けた人の脳をMRIで調べてみると前頭前野の萎縮や集中力や意思決定、共感などの司る右前帯状回も減少されていた。またこの部位が減少することで非行や鬱へなる場合があるという説もある。他にも痛みが鈍化しやすいようにその回路が細くなっていたり、性的虐待では視覚野、その中でも顔を識別する紡錘状回やワーキングメモリの低下、暴言の中で育つと聴覚を司る部分の萎縮、などとにかく脳自体が、柔軟で育っている時だからこそ、その環境を生き延びる為に相応しくカスタマイズ化されているのです。
だから、幼少期から思春期の発達段階での環境は大変重要なのです。
昔のことにいつまでも、とか、もう大人なんだからそんなことは忘れろとか許せ、とか、
それでは済まされないのです。
だって不適切な状態で生き延びた脳は、そのままだから。
だから大人になろうが生きづらいのです。
普通の人には大したこともない不安も過剰に反応してしまう
またはイライラが抑えられずにヒステリックになってしまう
または相手のことを聞くことが出来ない、見えない、覚えられない…。
それはあなたのせいではない、のです。
心が弱いから抑えられないのではなく、抑える部位が恐怖で萎縮してしまったから。
ならそこを再び成長させればいい。
あなたを苦しめた可塑性があったからこそそのカスタマイズされた脳ですが、
そう、可塑性があるのです。そこから変えることが出来るのです。
これをバランスよくするのが心理療法です。
歪んだ脳を、元に戻す。
傷を全部消すことは出来ないけれど、今の状態より、
聞けて、我慢出来て、落ち着かせられるような、そういう脳にする。
ここからはわたしのセッションを通した実体験なので科学的な裏付けはありません。
がしかし、身体的にとらえられるフェルトセンス(=正確には違うのですが一般の方はとりあえず、過去にある未完了の感情、と、仮に便宜上理解しておいてください)と向き合っていくことで、身体が変わり、そのフェルトセンス達(沢山います)と対話できた時、脳が変わっていきます(わたしは共感しているのでその人の脳が変わっていくのを同時に体感するのでわかるのです)。その際人によっては一週間程度眠くて仕方ない状態になったりしますが、わたしから見るとそれは生まれ変わる蛹のような状態に見えます。そのクールを目安に自己回帰セッションをコースにした、というのがそもそもの流れだったりします。
さて色々書きましたが、悩んでるあなたは自分に当てはまることがあったでしょうか。
また子育て中の方、介護の方は、ああ、目の前にいる年齢の違う人は、発達段階が違うのだから
その発達段階に合わせた対応をしないと理解し合えないんだな、と心にゆとりを持って接していただけるとありがたいと思います。